一般社団法人知識環境研究会は、介護職と看護職を対象にして思考スキーム(Thinking Scheme ※1)という考え方に基づいた、各職種の思考パターンを抽出・比較する研究を行い、下記の結果を得た(※2)。
事実認識、ケアの実施根拠、ケアの実施という思考スキームにおいて、介護職の方が看護職よりも多様な思考パターンを持つという傾向がみられた(図1)。
本研究では、ある事例動画を視聴し、その場面において自分がどのように対応するかという実験を介護職55名、看護職55名の被験者の協力の下に行い、各職の思考スキームを比較した。実験は2015年10月から2016年8月までの期間に行った。
その結果、介護職では思考スキームの多様な組合せが観察された。看護職は思考スキームの組合せが一定で、ある程度定まった思考スキームが共有されていることが観察された。介護職は様々な入職経路があり(本調査研究では「オープン職性(※3)」と定義した)、その結果、背景知識や技能、経験などによる思考スキームの多様化がみられることが推測された。一方、看護師は入職に際して資格を保有していることが必要であり、入職経路が限られている。そのため、思考スキームを一定にするための教育が浸透しやすいといえる。
さらに、介護分野は実践性を重んじる傾向が強く、関連する様々な諸分野の理論を取り込む「学際性」を持っている。このような分野特性が、多様な思考を容認する傾向に影響しているものと推測される。
介護需要の増加が予測される中、介護人材の量的な供給を拡大させなければならないといわれている。そのため、今後も多様な経路からの入職が増えることになるだろう。その中で、介護職が持つオープン職性という性質は強まる傾向が想定される。さらに、海外の介護人材が入職するようになれば、日本の介護現場で働く介護職の思考スキームはさらに多様化が進むことになるだろう。多様な経験や背景知識を持つ介護職が活躍することで、介護現場が活性化し、利用者・利用者家族が持つ多様なニーズに細やかに対応することが期待できる等のポジティブな解釈も可能だろう。しかし、介護職の思考スキームの多様化が過度に進むことは、介護サービスの品質によい影響を与えないことが推測される。何よりも安全管理の不徹底や異文化間のコミュニケーション摩擦など、容易に想像できるネガティブな影響もある。
介護職は多様な思考スキームを持っていることを理解したうえで、介護サービスの品質を保証・向上するため、思考スキームに基づいた人材管理、現場教育が求められるだろう。いわば、思考スキーム・マネジメントを担う介護リーダーの育成が望まれる。多様な思考スキームを持った介護人材が働く職場で、思考スキームの共有を促し、ケアの質を向上させる思考スキームを創造していくことができるリーダー層の養成が急務だといえる。
以上の調査結果を基にして、知識環境研究会は2017年から、介護福祉士教育を担う教員を養成する「実務者研修教員講習会」を開講する(※4)。この教員講習会は、本調査研究で言及したような、思考スキーム・マネジメントを担える介護のリーダー層(介護福祉士)を育成するための教員を養成しようとするプログラムである。
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